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「脳裏から離れぬ青い鳥の軌跡」
十年以上前になるが大町市の山奥の川のほとりに部屋を借りて住んでいた。人間よりも猿の方がはるかに多く、熊やカモシカもよく出没した。そのころアパートの裏山で何回もオオルリを見かけた。美しいさえずりに耳を澄ませていると、林の中を青い閃光のようにオオルリが通り過ぎる。ほんの1秒か2秒の出会いなのに、緑の木立を切り裂くように飛び去るあの瑠璃色は脳裏にしっかりと焼きついている。
先ごろ、日本絵本賞という賞の審査をした。グランプリを受賞したのは『カワセミ 青い鳥見つけた』(嶋田忠文・写真 新日本出版社)という本だった。カワセミの生態をとらえたドキュメンタリー絵本で、水中で魚を取る瞬間など、見たこともない迫力ある写真が何点もあった。しかし、それ以上にカワセミの鮮やかな青い色が心に残った。
授賞式で作者の嶋田忠の話を聞くことができた。写真家になったきっかけは学生時代にコバルトブルーの軌跡を引いて飛ぶカワセミの姿に感動したからだという。その姿を写真に撮りたいと思い、10年間カワセミを追い続け、ついに動物写真家になったそうだ。ところが、フィルムの色と、自分の認識しているカワセミの色との誤差に納得がいかず、一時期、写真からはなれる。しかし、近年デジタル処理で色調を自由に調整することができるようになって、再び写真の世界に戻ったのだという。 実は、この絵本、以前に撮り貯めたフィルムをデジタル情報に置き換え、自分の感覚がとらえていたカワセミの色に修正して出版したのだそうだ。 写真もデジタルの時代になると、記録から創造へと意識を変化させないといけないのだろうか。写真家が画家に近づいた。 今年は、久しぶりに大町の裏山へオオルリを見に行こうかと思う。あの青い色をもう一度見てみたい。 (安曇野ちひろ美術館/長野県信濃美術館館長 松本 猛)
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