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「信濃では月と仏とおらがそば」「名月や江戸のやつらが何知って」「何のその百万石も笹の露」など一茶の句として親しまれてきたこれらの句は、最近の研究によると真作ではないらしい。 明治以降の一茶再評価の中で、彼は反骨の庶民派俳人として人気を博し「迫真の偽作」がいくつも作られたようだ。偽作者は信州人だろう。一茶と信州を愛し、江戸にも、加賀百万石にも一矢報いたいという思いが、こうした句を生んだに違いない。 一方、藤沢周平の『一茶』や田辺聖子の『ひねくれ一茶』などの小説では世をすねた複雑な人間として一茶像が描かれる。小説としては「気立てのいい人」では面白くない。そこで、嫡男にもかかわらず15歳で江戸へ奉公に出され、後に継母と弟を相手に執拗な遺産相続争いを演じた一茶がクローズアップされる。 しかし、心を無にして句と向き合うと、反骨でも、ひねくれでもない、心優しい一茶が見えてくる。 今回出版した『ちひろと一茶』(信濃毎日新聞社)では、手前味噌で申し訳ないが、ちひろの絵と一茶の句が驚くほど響きあっている。あまりの相性のよさについ調子に乗って、ちひろと一茶の架空対談まで書いてしまった。二人は150歳の年齢差を越えて意気投合してくれた。 「愛らしく両手の迹の残る雪」「雪とけて村一ぱいの子ども哉」こういう眼差しを持つ一茶も見てほしい。(出版記念展「ちひろと一茶」は安曇野ちひろ美術館で5/12まで)
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