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長野で飲み会があった。こういう日は妻に明科駅への送迎を頼む。うまい酒を酌み交わし、9時半過ぎの列車に乗り込み「迎え頼む」とメールを打つ。暖かな車内。隣の人はすぐに安らかな寝息を立てた。こちらもいい気分でうとうとする。人の動く気配で目を覚ました。たくさん乗っていたはずの人がまばらになっている。不安がよぎる。外を見る。真っ暗。カバンを胸に抱き、ドアへ急ぐ。左右を見回すがまったく見覚えのない駅だ。(乗り過ごしたか…)閉まり始めたドアからホームへ飛び降りた。(またやったか!?どこだ?)人影が消えたホームをとぼとぼと改札まで歩き、やっと駅名を確認する。「いなりやま」…。なんと姨捨の手前の駅ではないか。がっくりと力が抜ける。次の列車は最終。一時間半以上も待たねばならない。人っ子一人いない待合室で妻に電話をかける。 「またぁ?もう知らないからねっ」 携帯電話はそう叫んで切れた。 長椅子でカバンを枕に横になる。いつの間にか眠っていた。ふと気づくと、下腹部がなにやら温かい。(まさか…)ギョッとして目を開くと、猫が腹の上でこっちを見ていた。 「おい、お前は叱られて家出か?」 声をかけると猫がニヤッと笑ったような気がした。やがて闇夜に最終列車の音が響いてきた。 「あばよ、お前もちゃんと謝って家に入れてもらえ」 猫にそっとささやいた
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