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「春はあけぼの やうやう白くなり行く山ぎは 少しあかりて 紫だちたる雲の細くたなびきたる」と、春の夜明けを愛でたのは清少納言だ。彼女は一人だろうか、あるいは誰かと満ち足りた朝を迎えたのだろうか。同じ枕草子に「あかつきに帰らむ人は」という一文がある。そこでは男と女の明け方の別れのありさまこそ風流であるべきだ、と語っている。 「夜明けのコーヒーふたりで飲もうとあの人が云った 恋の季節よ」と歌ったのはピンキーとキラーズだ。恋人たちの春の宵は、趣深い夜明けを準備する。 今年は机の前に月齢がわかるカレンダーを掛けた。月の満ち欠けを意識する日々だ。四月初めの満月のころ、風呂の窓の水滴が月光に輝く様はえも言われぬほど美しかった。窓を開けると柔らかな春の空気が流れ込む。土の香りと月の光を味わいながら、春はすべてが動き始めるときなのだと感じた。 通い婚の平安時代、男たちは寒さが和らぐ春の月夜を待ち焦がれて恋する人のもとへ通ったはずだ。立待ち月、居待ち月、臥待ち月などという言葉は月への愛着が生み出した言葉だろう。 25日は新月。少しずつ月が満ち、5月9日に満月になる。墨色の空にアルプスの頂が白く浮かび、水の入った田には月が映るだろう。妻でも誘って夜の散歩に出ようか。 「外にも出でよ触るるばかりに春の月」 中村汀女
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