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母と祖母
安曇野ちひろ美術館は3月1日、冬期休館を経て開館した。今年最初の展示は「ちひろ・母のまなざし」。いうまでもなく、いわさきちひろの母親としての視点が感じられる作品を展示している。つまり、息子である私がいたるところに出現しているわけだ。その中に気になる母の自画像がある。画中の母は片手で生まれたばかりの私を抱いているが、もう一方の手は二の腕までしか描いていない。この絵は私を抱きながら鏡を見て描いているために鉛筆を持つ手先は描かなかったのだろう。母の表情には憂いが見られる。
当時、司法試験の勉強中だった父は無収入で、生活は母の絵筆一本にかかっていた。母は出版社などから仕事をもらっては何とか生活していた。育児との両立は困難を極めていたに違いない。そのとき東京から私を引き取り、一年ほど育てたのが松川村に住んでいた祖父母だった。
母は、祖母の岩崎文江を絶対的に信頼していた。私の記憶が始まってからも、祖母はよく私を信州へ連れ帰った。今思えば、母が締め切りに間に合わないときなど「猛を預かって」とSOSを出していたのかもしれない。そのせいか、私は大のおばあちゃんっ子に育った。
祖母は当時女子教育の最高学府だった奈良女子高等師範学校の第一回卒業生で、戦前は女学校の教師だった。戦後は蟻ヶ崎高校の同窓会長を17年務めた。
美術館では「ちひろの母・岩崎文江」展も同時開催している。(5/11まで)
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