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能面
穂高神社に初詣に行った後、参集殿で開かれていた能面の展覧会を見る機会があった。
舞台で使う能面を想像して壁面を見ると、オバマ大統領の顔の面(おもて)が目に飛び込んできた。伝統的な若い女性の顔をかたどった小面(こおもて)や翁の面もあったが、片面が般若の顔になった小面や、一見穏やかで無表情に見える小面に喜怒哀楽の表情をさせた20変化の面もあり、普通の能面展ではなかった。
小面の裏に般若あり、という言葉があるそうだ。人は誰も表の顔だけで生きているわけではない。家族にも見せない本人だけが知っている顔があるはずだ。いや、本人でさえ気づかない顔だってあるかもしれない。
渥美清の墓石には本名の“田所康雄”とだけ刻んであるそうだ。「死んでいくのは田所康雄であって、渥美清でも“寅”でもない。絶対に“寅”の墓は作るな」という遺言によるという。
面打師の柏木裕美さんがオバマの面を作ったのも、アメリカ合衆国大統領を演じる一人の黒人男性の内面の顔に興味を持ったからに違いない。
能楽の大成者、世阿弥は「秘すれば花なり」といった。抑制した演技にこそ深い味わいがあるということだろう。手を目元に近づける「泣く仕草」は涙を拭うのではなく隠す仕草だという説もある。
鏡の中の自分の顔をしみじみと眺め、いろいろ表情を作ってみた。どうやっても薄っぺらに見えた。悲しい。
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