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「静かな町 バート・ヴィムプフェン」何げない路地を見つめ
4 静かな町(ヴィムプフェン)
フランクフルトから南へおよそ百キロメートル。ネッカー川沿いの古城街道にバート・ヴィムプフェンの町がある。川に掛かる橋の上から緑の崖の上に4本の塔がある古い町が見えた。東山魁夷が描いた絵と同じ景色(写真参照)だ。彼もこの橋を渡ったのだと思いながら、町はずれに車を置き、塔を目指して坂を登った。観光客がほとんど見あたらない静かな町だった。
魁夷の足跡を追い続けていると、彼の行動パターンが読めてくる。町に入るとまず、全体像を把握するために高いところへ登る。塔があるときは塔へ、丘や山があれば必ずそこにも登る。
私は「静かな町」に描かれた道の奥の方から歩いてきたので、この景色に気づかず通り過ぎてしまった。道で出会った老婦人に絵を見せて場所を尋ねる。その人はすぐに分かったようだったが、英語が通じない。すると私をある家へ連れていった。庭は花であふれ小粋な置物がいくつもあった。英語を話す女性が笑顔で現われ、青い塔の上からの景色だと教えてくれた。気がつくと、どの家にも花が溢れ、競うように楽しい佇まいを見せている。一軒一軒の住人が家を愛し、町を愛していることがよく分かる。
青い塔の重い扉を開け、延々と階段を登ると最上階に窓口があった。本を読んでいた青年からチケットを買う。奥を覗くと、その青年が住んでいるように見えた。塔には中世の時代から絶え間なく番人が住み続けていたそうだ。
「静かな町」は塔の上の回廊からみた景色だ。ネッカー川が流れる雄大な風景でもなく、立派な二つの塔を持つ教会でもなく、魁夷はここから何気ない路地を見つめた。手前の家の窓からは人が広場を眺め、奥の張り出し窓には花が飾られている。魁夷はこの町の静かな生活に心を惹かれたのだろう。
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