カテゴリ: つれづれ日記
何日間か、雲の中だったアルプスの峰にはきっと雪が降っているのだろうと想像していた。晴れあがった日の景色を心待ちにしていたのだが、今朝は青空にくっきりと白い山が見えた。右手が有明山、左が大天井岳。今年は異常気象だったが、やっといつもの11月の景色になった。このままさわやかな日が続いてくれるとうれしい。
秋は透明な光と風の季節だ。この秋の美しさを描いた人は画家にも作家にもたくさんいるけれど、宮沢賢治はその中でも秀逸な一人だと思う。先日、「宮沢賢治とちひろ」についての講演をする機会があって、久しぶりに賢治の詩や童話を読んだ。あらためて読み返してみると、これほど視覚的な文章だったかと感動した。「めくらぶどうと虹」の冒頭の部分を引用してみよう。”めくらぶどう”というのはノブドウのことだ。一房に青や紫や赤紫や赤や白の実をつける。
「城あとのおおばこの実は結び、赤つめ草の花は枯れて茶色になり、畑の粟は刈られました。(中略)崖や堀には、まばゆい銀のすすきの穂がいちめん風に波立っています。その城あとのまん中に、小さな四つ角山があって、上のやぶには、めくらぶどうの実が虹のように熟れていました。さて、かすかな日照り雨が降りましたので、草はきらきら光り、向こうの山は暗くなりました。そのかすかな日照り雨がはれましたので、草はきらきら光り、向こうの山は明るくなって、たいへんまぶしそうに笑っています。そっちのほうから、もずが、まるで音譜をばらばらにしてふりまいたように飛んできて、みんな一度に、銀のすすきの穂にとまりました。・・・」
色彩、光、風、空気、明暗、こんな風にハーモニーを奏でる風景描写をしてみたいと思う。そして、物語は、このあと美しい虹の登場へと導かれていく。
今日は昼前から再び山は雲の中に隠れてしまったが、次の晴れ間が出た日に、さわやかな光と風を感じながら、賢治の目をもって野山を歩こう。遠く、真っ白に輝くアルプスを眺めながら。
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