カテゴリ: つれづれ日記
新宿駅で「あずさ」を待つ間、構内の本屋をのぞいた。池上彰さんの『伝える力』がずらりと並んでいる。帯には「100万部突破!“自分の思いが相手に届かない”と感じたとき必読の書」と書かれていた。思わず手に取る。
池上さんは高校の一級先輩で、同じ部室にいたこともある。学生運動全盛の時代だったが、彼は寡黙な人だった。今と同じ顔で、部室の隅に座り、いつも静かに本を読んでいた。ぼくの小説『失われた弥勒の手━安曇野伝説』の書評を信濃毎日新聞に書いてくれたこともあり、去年は2回会う機会があった。
『伝える力』はあっという間に読み終わった。読みかけだった教育学者の本に比べてなんと楽に読めるのかと驚いた。基本は、語りかける文体だからだ。長い間、NHKの記者をやっていた池上さんはアナウンサーが読む原稿を書き続けていた。耳で聞いてわかる文章を書く人なのだ。この本はPHPビジネス新書ということもあり、ビジネスマンに語りかけるスタイルを徹底していた。素材も舞台も会社。お見事。
印象に残った一つに携帯の絵文字についての一文があった。池上さんは「絵文字の使用に慣れてしまうと、掘り下げて考えなくなり、思考力も表現力も低下してしまう可能性があります」という。同感。
交通標識やトイレマークなど絵文字(ピクトグラフ)は瞬時にしてメッセージを伝える力がある一方で、画一化した概念しか伝えられない。人に話すときや、ものを書くときは、視覚的なイメージが浮かぶようにするとわかりやすくなるのだが、絵文字の使用は確かに気をつけなければならない。一方で、絵文字入り文章というのはマンガや映像文化があふれる現代という時代の中で、文字だけの文章とは違う、新しい表現ジャンルとして確立されていくのかもしれない。
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