松本猛(たけし) 公式サイト / 田島征三の展覧会「生命の記憶」

つれづれ日記/安曇野ちひろ美術館前館長、長野県信濃美術館・東山魁夷館前館長松本猛(たけし)のBlog

カテゴリ: つれづれ日記

田島征三の展覧会「生命の記憶」

更新日:2011.01.18

モクレンの実の作品

タイサンボクの実の作品

 

 田島征三さんは71歳。絵本画家として『しばてん』『やぎのしずか』『ふきまんぶく』など、たくさんの名作を生み出し、今も精力的な絵本制作を続けているが、もう一方で現代美術の作家としても知られている。もっとも、田島さんの中では、絵本制作もオブジェの制作も区別はあまり無いのかもしれない。
 東京代官山のヒルサイドテラスのフォーラムで30日まで開催されている田島さんの展覧会に行ってきた。
 会場を歩いているとき、不思議な感動が押し寄せてきた。作品はたしかに美しいし、素材として使われた木の実のマチエールの魅力もある。しかし、それだけでは言い表せない、何か、しずかな波が押し寄せてくるような力がそこにはあった。
 木の実という、何億年もの間、植物の「生命の記憶」を伝え続けてきたものの形が発する力なのだろうか。田島さんは、動物のように意思表示をしない植物の種子の意思を、形にしようとしたのかもしれない。
 図録の中に画家の宮迫千鶴さんと2004年におこなった対談があった。その中で、絵の具はいつでも描きたいときに使えるけれど、木の実はそうは行かないということを言っていた。一年がかりになる作業なのだそうだ。木の実を拾うという作業は物理的に時間がかかる。大きな画面の作品には万単位の木の実が必要になる。毎日毎日、道で木の実拾いをしていると、よく怪しい人に間違われるそうだ。
 制作にモクレンの実が必要だとしても、花が咲き、実となり、落ちるまでずっと待たねばならない。その意味では、木の実を使う作品作りは、季節とともにある農業に似ているかも知れないと田島さんは言う。
 自然というのは、人間が想像もできない造形を作り出す。今回の作品は、こういう形を作りたいという田島さん個人の意思を超えているような造形に思えてならない。
 人間社会は機械文明を発達させてきたが、人間も、じつは自然の一部だ。田島さんの木の実の作品群は、ぼくの中に潜んでいる自然の生命としての記憶を呼び覚ましてくれたのかもしれない。
 新潟の十日町の鉢という集落に廃校になった小学校を使った田島さんの「絵本と木の実の美術館」がある。今は雪に埋もれているが、春になって開館したら訪ねてみようと思う。

松本猛

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